と、歌を始めたときと同じように、急に、その人は目を開け、手を止めた。
「ご静聴ありがとう、おじょうちゃん。」
歌っているときと同じ、ざらっとして低くて甘い声で、その人は言った。
すずはあわてて、手の甲で顔をぬぐった。
その人は、クスッと笑った。
「おじょうちゃん、どうした?
泣いてたのかい?」
すずは、おじょうちゃんと呼ばれて、ムッとした。
「泣いてたよ。
悪い?」
「いや。
悪くないさ。」
男みたいな言葉づかいだ。
いくつくらいだろう。
すずは、年上の人の年齢を予想するのが苦手だ。
でも、たぶん、この人はまだ大人ではない。