人の声で歌うのをやめてからも、その人は、マーティンを歌わせ続けた。 ぶるぶる、びりびりと、空気をふるわせて。 おさえきれない気持ちのままに、高い音の弦をかきむしる。 きっちり一本一本を弾くのではなくて、ピックはときどき隣の弦まで引っかく。 音階のない音が、かすれたひびきをあげる。 その人の左手の指が、弦を引っ張って歪めたり強く叩いたりすると、マーティンの鳴らす高音は、急カーブにねじれる。