ラで始まったその曲に、すずは魔法をかけられた。



その人のゆるいこぶしの指先には、白いピックがにぎられている。


そのこぶしが、リズミカルの上下に動く。


いつピックを弦に引っかけているのか、すずの目には見えない。


でも、音が生まれてくる。


よく通る弦のひびきが、生まれてくる。



すうっ、と、その人が息を吸い、すずを見つめる目を閉ざした。



その人の口から、音がつむがれる。


呪文みたいだ。


外国の言葉だ。



十字路の四方から集まってきた弱い風は、中央で一つになって、真ん中で歌う人とギターを包み込んだ。


そこは、透明なコンサートホールになっていた。


空気は正確にふるえて、ピアニッシモもブレスも、かんぺきに伝える。