あのとき、すずは急に、だれかに呼ばれたような気がして、かべの上のほうを見た。
そこには、いろんな種類のギターがずらりと並べてかけられて、買い手を待っていた。
本当にたくさんのギターがあった。
なのに、すずには、わかった。
だれがすずを呼んだのか。
アコースティックギターの中で、いちばん小さい。
うすくて、キュッとくびれている。
深い茶色をしていて、しみも傷もない木目が、どんな模様よりも美しかった。
「ママ!」
気付いたら、すずは、そのギターを指差していた。
「あたし、あのギターがほしい!」
すずは、生まれてはじめて、ママにおねだりをした。