すずがレッスンを終えてピアノ教室から出たとき、おむかえに来ていたママは、お仕事スタイルでバッチリきめていた。
「うわぁ、ママ、すごい。
かわいいよ。」
すずは、ママをほめた。
ママは、赤いくちびるを指先で隠して、ふふっと笑った。
そのつめは短く、うすいピンク色にぬってあって、宝石みたいなビーズで飾られている。
「ありがとう、すずちゃん。
さあ、車に乗って。
今日のレッスンは、どうだった?」
「うまくできたよ。
いつもどおり。」
車のコンポからは、ブラームスが流れている。
ヴァイオリンの曲。
タイトルは、どれもよく似ているから、覚えていない。
ママは、頭文字がBの音楽家の中で、ブラームスがいちばん好きだ。