「許されないことだと判っている。あの時、俺は加奈子だけだった。なのに、親父が会社の付き合いで大事な得意先からの縁談を断れないからと。相手の女と俺が結婚すれば双方にとってプラスになると。
事業は拡大するし利益も向上する。そして見合いの席は整ってしまっていて既に結婚話も進んでいたんだ。俺の知らないところで。」
透は当時のことを話してくれた。
全て私に包み隠さず話してくれた。
それは、社長と先方の社長の話し合いだけで決定してしまった名ばかりの見合いの席に出席させられたときは、結納の席だったそうだ。
透は父親である社長に私の存在を知らせ私との交際を認めさせようとしたが、結納を交わした今となっては後戻りはできないと言われた。
透と見合い相手、婚約者になった女性との交際を強要されてしまった。
仕方なく一度顔合わせをし、その席でこの話を破棄にしようとしたところ、相手の女性が泣き崩れてしまい手が付けられなかったと。
その涙は演技だということが後日分かったそうだ。
私と泣く泣く別れた透は、婚約者の女性と順調に交際を続け夜を一緒に過ごしたいと女性に誘われた時に、あの時の涙は嘘だと婚約者の口から聴いたと。
この縁談を破談には出来ないと、必ず成就させるようにと親に言われていた婚約者が必死で演技をしていたのだ。
婚約者の親が経営する事業には透の会社は重要な存在で事業を展開するうえで大事なつながりだったらしい。
透は前向きに考えようとしても、どうしても婚約者を受け入れられなかったらしい。
まるで娼婦のような姿に幻滅した透は次第に婚約者から離れてしまったと。
そして、そんな中、私を探してくれていたと。
私をずっと求めてくれていたと、この時、初めて透の気持ちを知らされた。
「俺はずっと加奈子だけを愛している。信じて欲しい。」
真っ直ぐな目で見つめられると昔の透を思い出してしまう。
けれど、ここにいる透はもう昔の透じゃない。