「私も子どもも捨てられたのよ。そんな男の子を産むなんて私は気が触れているって言われたわ。
それもそうよ、望まれてもいない子なのに、不幸にするって分かっていてあの子を産んだのだから。」


あの時の辛い思い出が私の心を更に悲しみの中へと引きこんでいくようだ。


もう思い出したくない辛い日々。


大学だけは卒業させてもらった。それまでは生活の保障はしてくれた。


だけど、卒業と同時に家族からの支援は打ち切られた。


自分が選んだ道だから一人で何とかしなさいと言われて。


小さな子どもを抱えて仕事をするのは辛かった。


でも、あの職場に就職できたからこそ私はみんなに支えてもらいながらこれまでやってこれた。


「商品管理部門の皆が君を捨てた男は最低最悪の極悪人って言った意味が分かるよ。
俺は本当に最低な男だった。すまなかった。」


透は私の手を握り締めるとその手に頭を下げ何度も詫びてくれた。


それでも、もう終わったことだ。今更何も言わない。


芳樹を産むと決めたのは私なのだから。辛い生活が待っているのを承知で産んだのだから。


「俺は、加奈子と別れたくなかったんだ。それでも、どうしても加奈子との交際は許されるものではなくなってきたんだ。」


「政略結婚でしょう? こんな大会社では良くあることよ。今もまだ納得はしていないわ。
理由も何もなくいきなり捨てられたのだから。でも、今なら少し分かる気はする。だからと言って、あなたのことは死ぬまで許さない。」


そうよ、私があの時どんなに辛く悲しい日々を送って来たか。


死んだ方がマシだって思うくらいあなたを忘れられなくて悲しい毎日だったのよ。