私をソファーに座らせると透は少し距離を置いて隣に座ってくれた。
私が警戒していることに気付いてそうしてくれたのか、或いは透の優しさからなのか、今はまだ透に触れる勇気はない。
「芳樹を妊娠しているって分かったのは何時だった?」
きっと透は私を捨てた後のことが気になるのだろう。埋められない時間を話し合いで埋めようとしても無理なのに。
そんなことは無駄だって透だって判っているだろうに。
それでも、私を捨てた後のことが気になるの?
「もう終わったことよ」
「終わっていない! それにあの子は俺の子だ。俺には知る権利がある。
頼むから、教えてくれないか?」
真剣な透の瞳は失くした時間を取り戻したいと言わんばかりに見えた。
きっと、私の心がそう感じているからそう見えたのかもしれない。
「透が私に会わないと言って捨てた翌日に私倒れたの。」
「倒れた? あの頃、君はまだ大学生だった。大学のキャンパスで倒れたのか?」
「ううん、自宅でよ。病院へ運ばれたら私は極度の貧血と神経衰弱と言われて数日間入院したの。
その時に妊娠を告げられて・・・・」
あの時、家族を失望させてしまった。
勉強して一流企業に入社するんだと勢いだった。
そんな私を勇ましくも感じてくれて応援してくれた家族を裏切ってしまった。
「何故連絡しなかった。入院までしていたなんて。」
「着信拒否したのはあなたよ。だから、もう諦めたの。一人でこの子を産んで育てるって覚悟を決めることが出来たから。」
「一人でって・・・・家族は? 君の家族はどうしたんだ?」
「勘当と同じ扱いを受けたわ。中絶しなかったから私の援助はしないって言われて。」
「なんて酷いことを。命を授かったのに。君の家族は自分らの新たな家族が生まれるのに支援してくれなかったのか?」
本当にこんなところは透は坊ちゃんなのよね。
何もかもが自分中心に動くとでも思っているのかしらね。
望まれない子どもを妊娠した愚かな娘が中絶もせずに産もうとするのを喜ぶはずはないわ。