「芳樹君、少し熱が出たみたいですけど。この前の風邪がぶり返したのかもしれませんね。」
最近自分のことばかりで芳樹の面倒が疎かになっていたんだ。
熱が出ていたことに気付かないなんて・・・母親失格だわ。
「でも、もう大丈夫ですよ。お薬飲ませたらすぐに熱も下がっています。とても元気も良いのでこのまま様子を見ますね。」
「はい、ありがとうございます。よかった、芳樹が無事で。」
私はとても嬉しくなって涙が流れそうになる。
「芳樹君が無事で良かったよ。じゃ、俺は先に戻っているけど田中はゆっくり戻っておいで。」
「吉富さん、ありがとう。」
吉富さんは芳樹の安否を確認すると仕事へと戻って行った。
こんなさりげない優しさが今の私にはとても嬉しい。
「あら、田中さん、芳樹君どうかしたんですか?」
同じシングルマザーの女子社員が遅刻して子どもを預けにやって来た。
「随分大きくなったのね。もう1歳くらいだったかしら?」
「ええ、すっかり重くなって大変なのよ。でも、芳樹君はもっと大きいから田中さんはもっと大変よね。」
「ほんとね」
芳樹の赤ちゃんの頃を思い出す。私もこんなふうにいつも抱っこしていた。
そして、しっかり抱きしめて芳樹に愛情を感じて欲しいと思っていた。
父親がいない分、二人分の愛情をしっかりと注いでやりたかった。
だけど、今はそんな余裕がないという事実に私は疲れている。
「大丈夫? 田中さん少し無理していない? あまり顔色良くないわ。」
「ううん、大丈夫よ。最近睡眠不足だから。」
本当は睡眠は取れている。
辞職に再就職、今後の生活にと頭を痛めることばかりに食事をまともに取れていないだけ。
今の生活を誰にも相談できないのが余計に辛い。
でも、気力でなんとか凌いでいく。