吉富さんが私へのアプローチをしていたことに気付いた江崎さんはかなり興奮気味だった。
「吉富さん?!! 抜け駆けしたな! 田中さんは俺が養ってやるんだ!」
江崎さんは吉富さんにライバル意識を持っているようだが誰も相手にしていない。
肝心の私も江崎さんはまったく対象外。
「何の話だい?」
透は初耳でしょうから珍しいでしょうね。
でも、私のことなんて関係ないわ。
「江崎君は田中さんにかなり熱上げてるんですが相手にされていないんですよ。
それでも、吉富さんに対抗してかしつこくアプローチしてるみたいですけど。
吉富さんも田中さんをかなり支えてるみたいですけど。」
そうなんだ、吉富さんにはお世話になった。
これまで、いろいろと。
「田中君、ちょっといいかな? 今下から連絡があって来て欲しいそうだ。」
「部長、すいません。ちょっと行ってきます。」
部長の内線電話に保育施設から緊急の連絡が入った。
芳樹になにかあったのだろうか?
私は芳樹の所へと急いだ。
「彼女はどこへ?」
何も知らないのは透だけ。
透以外はみんな私が芳樹の所へ行ったのを知っている。
「知らないんですか? 彼女、ここの保育所に息子さん預けているんですよ。」
親切にも坂田さんが透に説明していた。
私がシングルマザーで芳樹を一人で育てていることを。
そして、周りのみんなは口々に相手の男が最低のヤツだと説明していた。
「最低の男? 知ってるのかい? その男を?」
透は興味津々でその話を聞いていた。
「いえ、誰も知りませんが。彼女の話によると、この世の男とはおもえないほど酷いヤツでして。最低最悪の極悪人らしいですよ。」
「人格は悪そうだしお金もなさそうだし、おまけに彼女と子どもを捨てたんですからね。」
蟹江さんと吉富さんまでも追加情報を透に提供していた。
もし、私がいれば止めていたのに。
まさかこんな会話がされているとは知る由もない。