「なんなら俺が養ってやるよ♪」


周りの空気を読めよ!と言いたくなるほどに江崎さんは能天気・・・


相も変わらず私と息子の二人くらい養ってやるよと声をかける。


私は何度もその気はないと言うがこの人には通じない。


案外、これって江崎さんは楽しんで言ってるだけ?


周りの社員たちも江崎さんの言葉には耳を傾けない。


てきとうに流して言うセリフに聞こえるからか、誰もそんなセリフをまともに扱わない。


早い話が完全無視だ。


「田中君、会社の規定通りに事前に退職届を出しているのだから辞めるのは君の自由だが。
でも、ちょっとね・・・・・専務と喧嘩したから辞めるなんて」


部長はシングルマザーの私の生活のことを考えて止めてくれているのだと思う。


それは有難いことだけども、万が一、透に芳樹の存在が知られてしまうとその後のことが怖い。


芳樹を奪われそうで、親権を奪われそうで、私は生きた心地がしないのだ。



そんなやり取りをしているところへ透が現れた。


すると商品管理部門はちょっとした騒ぎだ。


おまけに透見たさに廊下ですれ違った女子社員を後方に引き連れている。


いったいここは何するところなの?


仕事するところなのだから透の見学者はさっさと自分の持ち場へ戻りなさいよ!と怒鳴ってやりたい。


女子社員のあんな態度が透の傲慢さを更に助長させるのだ。


「蟹江君、例の企画書をもう一度練り直したいんだが。」


透は企画会議のやり直しの連絡に来ただけなのだが、商品管理部門のあまりの雰囲気の悪さに透は少し戸惑っていた。


「何か問題でも?」


この微妙な雰囲気は何だろう?と透が蟹江さんに尋ねた。


しかし、蟹江さんは私が透と喧嘩したから退職届を提出したとは流石に言えなかった。


そんなことを言えば明らかに専務のせいで一社員が退職に追い込まれたと言わんばかりになる。


言葉に詰まった蟹江さんはただ狼狽えていただけだった。