ささやかながら病院の面会室を使って挙げた挙式の後、両家の両親は簡単に挨拶を済ませた。
加奈子の義父はまだ長時間車イスに座れる程の体力がなく無理は禁物で、精神的にも興奮状態が続くのも好ましいとは言えなかった。
病室に戻った義父はベッドに横になるといつの間にか眠りについた。
その顔は娘の結婚式を喜んでくれたような微笑んでいるような寝顔だった。
俺達は病院側の好意で使わせてもらった未使用の部屋へ行き、いつものカジュアルな服へと着替えを済ませた。
「加奈子、新婚旅行はいつ行くの?」
「え? 行かないわよ。だってこの後仕事が忙しくなるのよ。」
「まさか、あなた達結婚したのにそんな思い出の旅行にいかないなんて。後で後悔するわよ。」
加奈子の義母の言う通りで今すべきことは今しないと後で絶対に後悔すると思う。
結婚式も入籍したばかりの今だから感慨深いもの。
折角結婚式を挙げたのだから本当ならば今夜二人は新婚旅行へ出かけても不思議ではない。
「私が行かないって言ってるんだから、いいのよ。それに、そんな暇あればお父さんやお母さんに会いに来るわ。」
「透さん、あなたはどう思うの?」
「お義母さんの言う通りだと思いますよ。私達は新婚旅行へ行くべきだと思います。」
俺は義母の意見に賛成だ。
だから、満面の笑みを浮かべそう答えた。
すると加奈子はかなり怒った顔をして俺を見ていた。
「この企画が今大詰めなのは分かっているでしょう?お父さんを見舞う時間だって惜しいくらいなのよ。」
加奈子の発案した企画なだけに今現場から抜けたくない気持ちはよく分かるが、本来ならば今日から新婚旅行へ行くのが普通だと思う。
加奈子はどうしても企画の事が頭から離れないようだ。
職場を離れ既に数日が経過しているのだから加奈子の気持ちも分からなくはない。