「それで、結婚式はもう済んだのか? 写真はないのか?」


「それが、入籍しただけで結婚式はしていないんです。本当は早く挙式をしたいのですが。」


「何か問題があるのか?」



ここで加奈子が首を縦に振らないとは言えない。


それでは加奈子に不満を持っているようだから。


それに、加奈ももまた不満があって結婚式を延期しているように思われるのも本意ではない。


かと言って、今の企画を終えない内は公表も何もしたくないという加奈子の気持ちも十分理解できる。


それをどう伝えればいいのか、そこまでは俺は考えていなかった。



そんな時、俺と義父の二人だけの時間を長く持つのは危険だと感じたような顔をしながら、加奈子と義母がいそいそと戻って来た。


すると、病室へと入って来た加奈子を見て義父がいきなり怒り出した。



「加奈子、何故結婚式をやらんのだ? それで一人前の嫁か? 」


「お父さんは何も知らないからそんなこと言うのよ。今はまだ仕事も忙しいし色々訳があって伸ばしているけど、結婚式をしないって言ってる訳じゃないのよ。」


「内輪だけの結婚式に何の問題がある? 俺に早く花嫁衣裳を見せんか、親不孝者めが!」



親不孝者という言葉にかなり反応をしめした加奈子は涙をいっぱい目に溜めていた。



自分が親不孝していたと改めて思い知ることになる。


それは俺も同じで加奈子同様親不孝してきたのだ。



「加奈子、お父さんは君の花嫁姿を見たいんだよ。だから、内輪だけでいい、俺達の結婚式をやろう。」



俺は加奈子を抱きしめると頭をしっかり撫でていた。


加奈子は親不孝者ではないんだよと、言いたくて暫くそのまま抱きしめていた。



「うん、する。結婚式するよ。でも、お父さんもお母さんも一緒じゃなきゃイヤなの。」


「だったらここでやる?」


「透君、院長の許可をもらって面会室を借りて結婚式をやればいい。それだと俺も加奈子の結婚式に出席できる。」


「それはいいですね。では早速院長の許可をもらってきますね。」



義父は俺の顔を見てやっと本当の笑顔を見せてくれた。


その笑顔は俺の親父と全く同じ父親の顔をした笑顔だった。