私が早退した会社の部署内はちょっとした騒ぎになっていた。


「部長!!! 田中さんが帰りましたよ!!」


私が会社を出るところまで確認した同僚の坂田さんがしっかり部長へ報告していた。


「なんでこうも彼女は衝動的なんだ? さっきの専務の時と言い・・・」


吉富さんは青い顔をして頭を抱え込んだ。


「あの子って考え方次第では大物になれるわ。」


冷静な判断を下しているのは相も変わらず商品管理部門では一番冷静な蟹江さん。


「そうだねぇ、次の企画のスタッフに抜擢したいな。」


と、のんびり構えているのは部長だ。


こんな部長で大丈夫か?と、吉富さんも蟹江さんもそう思ったはず。


「いえ、田中さんは今辞めるって・・・」


坂田さんはオロオロするだけ。


「ああ、大丈夫よ。明日になればケロッとして出てくるわよ。」


まるで坂田さんを宥めるかのように言う蟹江さん。


蟹江さんの言葉に坂田さんは多少は落ち着いていたが、それでも、専務と揉めた上に勝手に早退した私を心配していたようだ。


ほんとうに、ここの人たちは良い人ばかり。


こんな私の心配をこうやってしてくれるのだから。


しかし、みんなの会話を聞いていれば多少は分かると思うが、かなりここの人たちはお気楽なところがある。


心配というより私がその後どんな行動に出るのかを少々楽しんでいるような感じだ。


職場がそんな状態になっているとは露知らず。


私はその夜テーブルに向って退職届を必死に書いていた。