久しぶりに加奈子は会社へ出社した。いつもなら芳樹が一緒に行くはずなのに今日は一人だけの出社だ。
加奈子は保育施設の方へ足を運び今後の契約を取り消す手続きをした。
「良かったですね。芳樹君のおじいちゃんとおばあちゃんが見て下さるなんて。こんなに素晴らしいことはないわ。」
「はい、私もとても嬉しくて。芳樹も嬉しそうで私も安心しました。」
「芳樹君と会えなくて寂しくなるけど、でも、それが一番芳樹君には良い事なので良かったですよ。」
保育士の言葉通り芳樹には家族が出来、その中で幸せな時間を過ごしていくことになる。
時には叱られたり、時には怒ったり、今からいろんな経験をするがそんな時に祖父母がいるという事はとても重要で大事なことだ。
俺達若い夫婦だけでは教えられないことを祖父母から教えてもらうんだ。
そして、俺と加奈子も親父達からいろいろと教わりたいと思っている。
お互いに慈しみあい思い合う夫婦でいるために。
手続きを済ませた加奈子は商品管理部門へと行くと一斉にみんなの視線を集めてしまい戸惑っていた。
「田中? もう体調は良いのか? 今回は社長直々の指示で特別に休みをもらっていたのだろう?」
「部長、少しは我々は期待しても良いんですよね? 田中の企画が社長に認められていると。」
早速、部長と課長の保身の会話が始まる。
全く情けない会話だ。日頃の業務をそつなくこなせばその地位は安泰と思わせるのは会社の為にならない。
だから、ここは多少厳しく灸をすえてやるとしよう。
「田中、今回の企画の成功の有無に関係なく社長から褒美が出るそうだ。社長は課長の座を考えておられるから君も考えておいてくれ。」
多少は部長も課長も努力を見せるだろうし、吉富は加奈子が上司になれば益々手の届かない存在になり諦めもするだろう。