加奈子が落ち着くまで抱きしめていたら、まったく気の利く家政婦だと呆れてしまう増田がやって来て、俺達の邪魔をとことんしようとする。



「坊っちゃん、遅くなりますよ。」



「分かっている。もう少ししたら降りていく。」



加奈子がこんな状態でいるのにそう簡単に会社へと出かけられやしないだろう。



もう少し加奈子の涙が渇くまでこのまま待っているつもりだ。



会社も大事だが今は加奈子の方が俺には大事だし、俺が抱きしめることで加奈子の心が少しでも落ち着くのならこのままいてやりたい。



頭を撫でていると加奈子が愛しくて益々離れられなくなる。



こんなに加奈子は細くか弱かっただろうかと再認識させられた。



加奈子の頭を抱きしめながら頭にキスをした。



何度も何度も加奈子を抱きしめながら。






「ありがとう、透。  もう大丈夫よ。」




加奈子の顔から笑みがこぼれると俺もまずは一安心だ。



これ以上加奈子の悲しむ顔は見たくないし悲しませたくもない。




「無理はしないでくれ。会社へは行けそうなのか? 休んでもいい。」



「ううん、これ以上は休めないわ。皆にしっかり迷惑をかけてしまって申し訳なくて。」



「大丈夫だ。加奈子に近づけさせないために吉富には頑張ってもらっているのだから。」




加奈子は頷くと俺に大丈夫だとガッツポーズをして見せた。



すっかり体調が良くなった加奈子の笑顔は、赤みを帯び頬が見事に可愛くて離れがたくなる。



「さあ、行きましょう。」



さっきまでの弱々しい加奈子はどこかへと行き、今は元気一杯の様子に俺も安心してしまった。



「よし、戦場へ行くか。」



「戦場? どうして?」



「ストーカーの吉富もいるし、今回の企画の発案者の田中って言う女は俺の手に負えない凄腕の可愛い女だからさ。」



「負けないわよ。透に絶対素晴らしい企画だったって思わせてあげるわ。」



「受けて立つ」



俺達は顔を見合わせて笑った。



こんなに幸せな時間が持てるなんて夢のようだと感じながら。