やはり透を見ていて動揺しないわけがない。
透の目を見ていると昔のように吸い込まれそうになる。
また、あの時みたいに抱きしめて欲しいなんて錯覚を起こしてしまう。
あの時のようにまた悲しい目に遭いたいの?!
透から少し離れ目を逸らした。
「物にあたるのはよせ。お前は頭に血が上ると何をしでかすか分からないんだ。
とにかく頭を冷やすんだ、いいな。」
まるで私だけが冷静でないみたい。
相変わらずね。私だけが悪いみたいな言い方はよして。
それに、
「命令しないで。
あなたとは今後一切話をするつもりはありませんから。だから、もう話しかけないで!」
至って冷静だと言いたくて私は姿勢を正し透の顔を直視して冷たく言い放った。
これで良いのよと自分に言い聞かせ会議室のドアを開けた。
そこで思い出したのが透の婚約者のことだ。
「ああ、そうそう、ご結婚なさるんでしょう? それとももうされたのかしら?
遅くなりましたけど、おめでとうございます。」
それだけ言うと透を睨みつけて会議室から出て行った。
思いっきり渾身の力を込めて会議室のドアを閉めてやった。
そのドアの閉まる音の酷さに透は驚いていた。
「困ったヤツだ。」
少し苦笑いする透だった。
透とこんなやり取りをしていたなんて、きっと、吉富さんも蟹江さんも思いもよらないでしょうね。
そういう私だって思ってもいなかったことだった。
まさか同じ会社だったとはこれも運命の悪戯なの?
或いは、他の女性との結婚を決めた透の息子を産んだ私への天罰なの?
こんな仕打ちをなさるなんて神様は非情な人なのね。
私はこれからこの会社で仕事を続けることが出来るのかとても不安になってしまった。