「入籍に関しては社長命令だ。いいか、今は加奈子さんと芳樹の生活を守るのが先だ。病気一つしてもお金で解決できない部分がある。彼女の両親の理解を得るのが先決なのは私にも分かっているが、まずはお前たちが入籍し加奈子さんに安心した生活をさせるのが先だ。」
加奈子の勘当を解く必要があるが簡単な事ではないだろう。相当な時間をかける必要があるだろう。
だからと、その時まで入籍を待つのは加奈子と芳樹の生活に問題が生じてしまう。
何時までも芳樹を私生児のままに出来ない。
それに、加奈子一人に苦労を掛けさせるわけにはいかない。
第一、俺は芳樹の父親として芳樹の人生に関わりたい。
「加奈子が目を覚ましたら話し合ってみます。」
「社長命令と言えば入籍は簡単だろう?」
「親父の力を借りたいとは思いませんよ。」
「結婚というのは父親の存在は大きな力を持つ。いざとなれば息子の透の為にも一肌脱ごう。もともと加奈子さんと別れる原因を作ったのは私なのだからね。」
例え親父の命令だったとしてもあの時加奈子と別れると決断したのは俺だ。
「別れ」は間違いだ。「捨てた」と言うのが真実だ。
だから、俺は一生かけて償うつもりだ。
加奈子を幸せにする為に。
加奈子のところへ行こうとしたが、自分が少し汗臭いと感じた俺は自室へと戻ると一度シャワーを浴びて身軽な室内着へと着替えた。
そして、眠る加奈子の部屋へと向かうと部屋からは話し声が聞こえて来た。
誰かと話しているのかと思うと、目を覚ました加奈子が眠っている芳樹に向かって話しかけていた。
「眠る我が子に何を話しかけていたんだい?」
「透、たいしたことじゃないのよ。」
明らかに戸惑うその瞳に加奈子は俺と結婚することを承諾したことに後悔しているように見えた。