お袋と家政婦の増田の二人はかなり乙女チックな様子で結婚式の話をし始めた。
その二人の様子に流石の親父も呆気にとられたらしく黙って二人を見過ごせなかったようだ。
「二人とも浮かれるのはいいが、肝心な加奈子さんに何の相談もなく決められるわけはないだろう。」
親父の一言でお袋も増田も少し不機嫌顔になる。
しかし、俺と加奈子の結婚は俺たちの気持ち以上にきっともっと大変な壁にぶち当たるだろう。
俺は知らなかったとはいえ妊娠した加奈子を捨てたんだ。
お腹の子も一緒に俺は一度は切り捨てた。
そんな過去を持つ男が今更求婚したとして加奈子の両親が許してくれるとは考えられない。
俺たちの結婚はこれからが正念場だと思う。
「俺たちの結婚式は俺達に任せて欲しいんですが。」
「あら、結婚とはそんなものではないはずよ。あなた達二人の式じゃないのよ。それに、彼女のご両親はご存じなの?」
「いいえ、加奈子は芳樹を出産する時に勘当同然の扱いを受けたそうです。俺が加奈子から家族を奪ってしまったんです。なので、」
「二人が再会したことも付き合っていることもまだ何もご両親はご存じないのか?」
「ええ、その通りです。」
親父もお袋も、そして増田も表情は曇っていく。
さっきまでのお祭り騒ぎのような夢見る結婚式からは遠のいた雰囲気になっていく。
俺がしでかしたこととは言え加奈子がこれ程に辛い生活を強いられていたとは思わなかっただろう。
加奈子の両親にはきっと加奈子以上に俺は恨まれているだろう。
きっと加奈子の両親は俺を娘を弄んで捨てた冷酷非情な男とでも思っているのだろうから。
「加奈子さんのご両親への謝罪と挨拶もあるだろうが、今は芳樹の事を考えて入籍だけはしなさい。社会的に加奈子さんはかなり困ることが起きているはずだ。」
「加奈子と話し合ってみます。」