「いいえ。加奈子はハッキリ言いました。吉富とは交際していないと。」
「それなのに、ストーカー紛いな行動にまで発展しているのだろう? 吉富君にとってはお前の方が邪魔な存在だろう。」
「加奈子はこれまで一人で芳樹を育て仕事との両立もかなり辛かったようです。それを商品管理部門の皆が協力してくれたらしく、特に吉富は加奈子と芳樹の世話を買って出たようです。」
俺が加奈子を手放したりしなければ、加奈子にこんな辛い思いをさせることはなかった。
今更そんなことを言っても始まらないのに、俺は悔やまれることばかりしてきたのだと思い知った。
「その世話と言うのはどの程度やってもらっていたのか聞いているか?」
「吉富に誤解を与えてしまうほどに頼っていたそうです。」
吉富にとっては自分だけが加奈子にかなり頼られることで、加奈子にとって特別な存在であると誤解しても不思議ではなかった。
それを誤解だと思い知らせる必要があるのだが、この男は自分が不利になるようなことは考えないだろう。
「まあまあ、どうして殿方と言うのはそんな悪い方へと考えるのかしらね。それより、せっかく坊ちゃんのプロポーズを受けて頂いたのですからお祝いをしませんと! それにお式を考えるのが先ではございませんか?」
家政婦の増田は相変わらず俺を小さな男の子扱いする人だ。
いい加減に俺を坊ちゃんと呼ぶのはやめて欲しいのに。
まったく聞く耳を持たない五月蠅い家政婦だ。
「本当にそうね。透、加奈子さんとは結婚式はどうするつもりなの? 式は挙げるのでしょう?」
お袋も増田と同じく結婚式のことで頭がいっぱいのようだ。
お袋の目は既に自分がウェディングドレスでも来ているかのような乙女な顔つきになっているぞ。
こんな状態のお袋を相手にすると後が面倒だ。