「置物の謎が解けたら安心しただろう? お風呂に入っておいで。その間にご飯の用意をしておくよ。」
「あら、あなたがご飯の準備なんてできるの? 確か料理はダメだって聞いた記憶があるのだけど。」
そんなセリフを言って困らせてみた。さっきの透の可愛い顔を見たら少し苛めてみたくなった。
私ってこんなに意地悪な女だったのかしらね?
あの企画のことにしても透を困らせてしまった。
奇抜なアイデアと思ったけれど、他の人から見れば奇抜でもなんでもなく、ただ、透にとっては苦痛なアイデアだっただけ。
透を勝手に利用して透をWebサイトに掲載しようとしているのだから。
ほんとうに私ってこんなに厭らしい女だったの?
ここで反省してもどうにもならないことだけど。既に企画は進んでいる。
社長から何のお咎めもないまま現在進行している。だから、企画のことは気にする必要はない・・・・
「加奈子? どうしたんだ? 急に黙り込んで。気分でも悪い?」
「え? あ、ううん。何でもない。ちょっといろいろ考え事してただけよ。」
つい、昼間のことを考えてボーっとなってしまった。
そんな私の顔を覗き込む透は私の額に手を当てていた。
「なに?」
「熱はないようだな。疲れているんだよ。ゆっくりお湯に浸かっておいで。」
優しい眼差しに優しい言葉を掛けてもらうと、つい、気を許してしまいたくなる。
私はこれ以上甘えてはいけないと思いながらも、どうしても、透に甘えてしまいたくなる。
私って自分勝手な女なのね。
「じゃ、お風呂いくね。」
せっかく透のマンションにいるのだから、ここにいる間だけだから透の優しさに甘えても良いよね?
今だけだから。 透と私が住む世界が違うのは承知している。 でも、今だけなら透の優しさに甘えても大丈夫だよね?