「加奈子、絶対に笑わないって約束できるか?」



笑う?  どうして置物の話を聞いて私が笑うの?


くだらない理由で置いている置物なのかしら?



「笑わないわ。約束する。だから、聞かせて。」



どんなことを言われてもいい。



いつまでもこの置物を見て心を痛めたくない。これ以上この置物たちに私の心を苦しめられたくない。



透は暫く俯いているかと思うと、今度は自らの手で顔を覆ってしまった。



その手を私は握り締めて顔から離した。




「透?」



「それは俺が買ってきたものなんだよ。」




意外なその一言で私の頭は思わずパニックを起こしそうになった。


何故、透がこんなものを買ってここに置いたのか私には理由が分からない。



「透が? どうして? これって透が好んで買いそうな小物じゃないわ。
どれもこれも可愛いものばかりじゃない。 このイルカなんて私とっても好きな・・・・・」



私が好きな?  イルカのガラス細工?



確かにこれって女の子が好んで飾りそうな置物ばかりだけど、これって私の好きな小物ばかりだからこれを見て癇に障っていたの?


でも、これは婚約者だった人が置いて行ったものじゃない。透が自分で買って置いたもの。


透が私の好きなものを・・・?



「もしかして、これ、私が好きだから?」



「そうだよ。旅先のホテルのお土産コーナーで見つけたんだ。きっと加奈子だったらこんなの好きそうだから買って欲しいって言うと思って。
だから、加奈子をそばに感じたくて加奈子の好きそうなものを買って目に付くところに飾っていたんだ。」



「じゃあ、ガラス細工のイルカの他の小さな小物もみんな透が買ったものなの?」



「ああ、そうだよ。」


かなり恥ずかしそうにしている透。私の顔を見れないのか赤面したまままだ俯いている。



「じゃあ婚約者だった人が置いて行ったものじゃないのね。」



「彼女はここに住んではいなかったのだから。置きようがないだろう。」



「透を信じるわ。」



多分、嘘はついていないと思う。証拠なんてなにもない。だけど、今のその透の赤く染まった恥ずかしそうな顔がなによりの証拠に思えるから。


私は透のその言葉を信じる。