私の言葉に知らん顔するつもりなの? それとも、知っていてワザと私を嫉妬させようとやっているの?
「加奈子の言っている意味が俺には分からないんだけど。それはどういう意味なのか教えてくれないか?」
何故か私の言葉に敏感に反応する透。 少し怒ったような顔つきをしているけれど、怒りたいのは私の方であって透にはそんな資格はないでしょう?
だから、リビングに置かれているイルカのガラス細工を指さしてみた。
どう見ても女の子の好きそうなガラス細工だから、これは透の元婚約者が購入してここへ飾ったものでしょう?
ところが、
透はそのガラス細工を見ると顔を赤らめて私に背を向けた。
透?
その反応っていったい何なの?!
私は、今の透の態度をどう受け取ればいいの?
元婚約者が残した置物に昔を思い出したから?
それとも、何か他のことで思うことでも?
なんで、私が透の過去のことでドギマギしなきゃいけないのか自分でも情けない。
透とは一緒になれないって突っぱねておきながら、いざ、誰かのモノになろうとするのを嫌うのだから。
私も、透と同じで自分勝手な気持ちを透に押し付けているのかも?
芳樹が透の息子だと知られた後、透からプロポーズされているけれどそれを受け入れなかった私に愛想を尽かしても当然なのかもしれないのだから。
なのに、透が私以外の女の人のことを考えるのはやっぱり嫌。
ずっと思い続けてきたのだから透を他の女に渡したくない。
「やっぱり、それって婚約者だった人が置いて行ったものなの? 彼女のこと忘れられないの?」
「違うだろ?! 俺は無理やり婚約させられてたんだぞ。やっと別れられてホッとしているんだ。
それに、この置物は彼女が置いて行ったものじゃないんだよ。」
婚約者の人が置いて行ったものではない?
なら、どうしてこんな女の子を連想させるような置物がいくつも置いてあるの?
私は透が好き、だから、私の気持ちを認めるから他の女の影をチラつかせないで。