「透、ありがとう。」


いきなり私にそんな言葉を投げかけられた透は驚いていたが、それと同時に何に対してのお礼なのか戸惑っていた。


「どうしたんだ? 芳樹のことを言っているのか? それとも、俺の加奈子への愛情の深さに対してのお礼なのかな?」


「芳樹のこともそうだけど、私が仕事に専念できるように気を遣ってくれているんでしょう?」


「あの企画には怒りたい気持ちで一杯だけど、それより、こうやって一緒に過ごせることの方が嬉しいよ。」


本当に、透はそう思ってくれているのだろうか?


だったら、何故、婚約者だった人との思い出を大事に取っておこうとしているの?


それが私は気にいらない。


気に入らない? まるで透は私のモノのような言い方だわ。


それに、これは完全な嫉妬だわ。


でも、透からの優しい言葉を貰う度に気になってしまうのよ。


リビングにいつまでも飾り付けられている小物たちが。


「ねえ、本当に婚約者とは完全に別れているの?」


「もう、終わったことだよ。信じられない?」


「だったら、どうして、こんなのが何時までもここに置いてあるの?!
それも、後生大事にしてますって言わんばかりに。私の目に入ってくるのが嫌なの。」


私の言葉に透は意味が分かっていなかったようだ。