人目につかない気の生い茂った森の奥深く。
そこに私たちの家がある。
なんでも、師匠が森は薬草やらなんやらが手に入るから便利だーとか言って。
ちゃちゃっとここに家を建ててしまった。
ログハウス風の小ぢんまりとした可愛いお家を。
_18××年.5.26_
「師匠師匠!今日が何の日か知ってます?」
おもちゃを強請る子供のようにあざとく可愛く美しく。
首を傾げてたずねるのが私、アリシア。
それをあからさまに嫌そうな目で見る黒髪の少年が師匠。
「知るか。うるさいからどっか行ってろ。」
私とそう変わらなそうな15歳の容姿をもった師匠。
彼はこう見えても、もうおじいちゃんくらいの年のはず。
そのどこか幼さの残った可愛らしい顔でため息をつき、平気で毒を吐く。
師匠の名前はエーヴリル。
かつてこの大陸にその生まれ持った力で名を轟かせた凄い人だ。
そんな人を師匠にもてるなんてあたしはなんて幸せなのか。
…そう思った時期もあった。
がたっと身を乗り出し、木製のテーブルを挟み向かい合っている師匠に目を向ける。
「師匠、あたし、師匠のところに弟子入りして七年目のはずなんですけど…。」
「だからなんだ。」
師匠は早く本題を言えとでも言うような目を向けてくる。
素っ気なく怒りっぽく、飽きやすい師匠。
あたしはそんな師匠が何十年も続けている仕事に興味があるのだ。
「師匠、そろそろあたしを一人前って認めてください!」
「簡単な薬の調合程度しかできない奴を認めることはできない。」
それだけか、と師匠は言って、読みかけの本をそのままテーブルの上に置き、
自室へと戻っていってしまう。
そう、七年間であたしは簡単な薬の調合技術しか得ていない。
錬金術が簡単ではないことくらいしっているけれど、
師匠から見たら、その辺の錬金術師と同じ並の実力の私でも虫けらのように見え
てしまうのだ。
_悔しい。
口をきゅっと結び、去っていった師匠の背を見送る。