「…ねぇ。
どうして、僕の雪愛を監禁したの?
雪愛を監禁したら、僕から雪愛を取り上げたらどうなるか、中学から僕を知っているキミならわかっていたはずだよね?
こうなることも、予想済みだったんでしょう?
僕を敵に回すと、1番危険なことも。
どうして?
ドウシテ?
どうして?
ドウシテ?
…僕カラ雪愛ヲ、取リアゲナイデヨ」
ブズッと言う鈍い音と共に、稲生の腕に痛みが走った。
稲生は再び、絶叫した。
「ネェ…ドウシテだよォ……」
闇より深く、冷たい貴魅の声が、脳内に響いて、痛みを感じる。
まるで、幼い頃から一緒だった人形を捨てた時、人形が捨てた理由を聞きにきたようだ。
「…しかもさぁ、知っていたんでしょう?
僕の家の、噂を」
稲生は思う。
何故コイツが怖いのか。
目の奥が笑っていないのも、怖いけど。
コイツが1番怖いのは、その声だ。
普段貴魅の声は、一瞬中学生かと思うぐらい、高めの声をしている。
18歳の、大学生だと言うのに、だ。
それが、雪愛に関して何かがあると、格段に低くなるのだ。
地獄からの使者を思わせるような、低く冷たい声に。
普段の貴魅は、無邪気な子どもだ。
無邪気だからこそ、怖いのだ。