稲生は今でも思う。
目の前で、にっこりと、恐ろしいほどにこやかに微笑む、誰をも魅了するカレがやったのではないか―――と。
コイツの、若王子家の力なら、警察に事件を事故や自殺と処理させるのは、簡単なことだろう。
…今思えば、若王子家自体も、変な噂が流れていた。
若王子家の娘で、現在社長を務めるコイツの母親が、夫でありコイツの父親を、家に監禁しているのではないか―――と。
しかし噂は噂でしかなく、それが本当なのか嘘なのか、真実はわかっていない。
社長は、子会社の社長を務めていた夫が、精神を病んで引きこもっているとしか報道陣には言っていない。
マスコミはその後、引きこもった夫を支える妻として、絶賛された。
稲生もそのニュースをテレビで見た時、凄い人だと感心したものだ。
―――だけど。
もし、母親が父親を、本当に監禁していたのなら。
あの涙も、「支えます」と言ったあの笑顔も、嘘になる。
もし嘘なら、あの母親は大した女優だ。
その息子が、
もし人殺しをしたとしても、
家の力で簡単に揉み消すことが出来る。
その上、
母親が父親を監禁しているんだ。
監禁は立派な罪だ。
罪を犯した息子を、
同じく罪を犯した母親は、
―――守るだろう。
だって、
同じ、ナノダカラ。