若王子貴魅。
世界に名を轟かせる、若王子家の御曹司。
その見た目と名字から、王子と呼ばれる人気者。
俺はずっと、
王子が嫌いだった。
「おや。
僕の名前、覚えていましたか」
「ああ…。
忘れることなんて、ねぇよ…。
珍しい名前だからな…」
「あんまり呼ばないでくれません?
僕、あんまり名前好きじゃないんですよねぇ。
貴魅って、女子みたいじゃないですか?」
稲生は鼻で笑った。
彼女―――白川雪愛には、「キミ」と呼ばれていたくせに?
稲生の考えていることを察知したのか、カレが笑う。
「雪愛は特別だよ?
あの子だけ、僕のこと下の名前で呼んで良いの。
…雪愛以外、呼ばせないから…」
稲生は、ゾッと身の危険を改めて感じた。
コイツは、若王子貴魅は、周りとズレた、異常な奴だ。
彼女である白川雪愛を、異常なほど愛している。
異常と言う言葉ではフォロー出来ないほど、コイツの愛は度を超している。
多分、俺が白川雪愛を監禁しなければ、きっとコイツが監禁していた。
そう思えるほどだ。
白川雪愛のことになると、コイツは周りが見えなくなる。
“王子が白川さんに興味を持っている”と男女関係なく騒いでいた頃だったと思う。
王子を嫌っていて、白川雪愛をいじめようと企んでいた園田愛恵と、
妹を殺されたと思い、王子に嫌がらせをした滝田愛佳が、
それぞれ亡くなったのは―――。