僕は雪愛に近づいた。
何を話そうか迷ったから、とりあえず近寄った。
「……っと」
雪愛に近づきたいあまり、机に自分の足を引っかけてしまった。
その拍子に、雪愛の机に置いてあったシャーペンが落ちた。
近くのスーパーで売っているような、どこにでもあるシャーペンだった。
僕はそれを拾って、雪愛の机に置いた。
「ごめんね」
「……いえ」
僕は彼女へ向け、出来る限りの笑顔を向けた。
いつも女子たちに送る笑顔は作り笑顔だけど、彼女へは違う。
僕の心からの笑顔を見せたかったんだ。
「シャー芯、折れてない?」
何か話したくて。
1秒でも多く、彼女の顔を見ていたくて。
1秒でも多く、彼女の声を聞いていたくて。
1秒でも多く、彼女の匂いを嗅いでいたくて。
机から落ちたぐらいでシャー芯が折れることは滅多にないけど。
僕は出来るだけ良い笑顔、出来るだけ愛想良く彼女に話しかけた。