だけど、自然と見つめている時間が、彼女を段々美化していった。




どうやら彼女も、アイツが好きらしく。

相変わらず憎たらしい奴だ、と思ったけど、アイツを見つめる彼女の瞳は綺麗で。




彼はいつの間にか、彼女に恋をしていた。

ただし、彼女本人ではない。

彼女がアイツを見つめる、その瞳に恋をしていたのだ。




彼に、愛された記憶はない。

両親は物心ついた時にはいなかった。

幼い頃の自分にとって、大人は親戚だった。

両親の死後、親戚が彼を引き取ったらしいのだが、親戚はどうやら嫌々彼を引き取ったらしい。

親戚、と言うが「本当に血が繋がっているのか?」と疑いたくなるほど、親戚と呼ぶには遠い存在だった。

引き取った理由が、両親の遺した遺産目当てだったんだと気付くのに、時間はかからなかった。




彼が中学生の頃、親戚は通り魔によって殺害された。

通り魔、と世間では言っているが、本当の犯人はわかっていない。

いまだ犯人は捕まっておらず、未解決事件として、世間から存在を忘れられているような事件だ。

別に彼も、親戚に情なんてものは湧いていない。

むしろ、アイツと同じく、殺したいほど憎んでいる存在だった。




幼い頃から愛された経験のない彼にとって、彼女のアイツへと向ける視線には、憧れを抱いた。

いつしか自分も、あんな美しい瞳を向けてほしい。




愛に飢えた、彼の憧れは、

―――いつしか、暴走した。