噂には聞いていた。
今年の新入生の中に、イケメンで成績も優秀な、校長お気に入りの男子が入学すると。
自分には関係ないから、と聞き流していたが。
…まさか、アイツだったとは、思わなかった。
クラスが違うと知り、喜んだ。
だけど同じ学年だから、体育や行事で、その姿を見ることは少なくなかった。
相変わらず、ソイツは多くの仲間に囲まれ、嘘っぽい笑顔を振りまいていた。
向こうは何度も自分を見ていたが、話しかけることはなかったのが、唯一の救いだった。
メアドは交換したものの、特に親しくなんてなかった。
親しくなんてしたくなかったんだから。
いくら憎き相手とはいえ、よくその姿は見かけたし、気が付けば目で追っていた。
そして、ソイツの、中学とは違うある変化に気がついた。
ソイツは、相変わらず多くの人に笑顔を振りまいているが。
たった1人の女子に話しかけるときだけは、やけに楽しそうに話しかけていた。
中学の頃から口数は多くなかったけど、その女子に対してのみ、やけに積極的に話しかけていた。
…アイツが、あんな1人の子に夢中になることなんてあったか?
そして彼は。
憎き相手が積極的に話しかける、その少女を、気が付けば目で追っていた。
彼女は、ハッキリ言って地味だった。
人混みの中に紛れてしまえば、見つからないと言えるほど、地味で目立たなくて個性のない、マイナス面しか見られないような子だった。
ただ、入試トップ合格者として、入学式の時に名前は呼ばれていたから、成績は優秀なのだろう。
それ以外、取り柄なんてなさそうに見えた。