僕は帽子を深く被り直し、その幸せそうな家のインターフォンを押した。
てっきりインターフォン越しに何か言ってくるのかと思ったから、いきなり家の扉が開いて驚いた。
…不用心だなぁ。
「…どちら様ですか?」
出てきたのは、小さな赤ちゃんを抱いた男性。
…子ども、か?
へぇ、結婚したんだ。
…奥さん、物好きだねぇ。
「近所に引っ越して来た、中岡(なかおか)です。
今、ご近所周りをしていまして、これ良かったらどうぞ。
お口に合うかわかりませんが……」
「あ、ご丁寧にどうも」
人の良さそうな笑みを浮かべたアイツは、
「ちょっと待っていてください」
と1回中へ引っ込んだ。
数秒後、先ほどまで抱いていたあかちゃんの姿はなく、アイツは無防備で僕へ近寄ってきた。
「わざわざありがとうございます。
わたしも、実は中岡というのですよ。
いやぁ、初めて同姓の人に会いましたな」
「そうなんですか。
初めて同姓に会いましたよ、わたしも」
中岡は、咄嗟に考えた偽名。
コイツも姓が中岡へ変化しているだなんて。
奥さんの姓なのか?