忘れていたわけじゃない。
高校の入学式の時、僕が雪愛の声に恋したことも、雪愛の全てが知りたくて盗撮したことも、全部覚えている。
鮮明に。
そして今。
無事高校を卒業し、僕は家を継いだ。
それを機に、雪愛と結婚した。
良いよねぇ。
本当美談だよ。
初恋の、同じような思考回路を持つ僕らが、結婚まで辿りつくなんて。
滅多に電車なんて乗らない僕は、切符を買いながら、ほくそ笑んだ。
大学へは徒歩だから。
電車通学ってのもしてみたかったんだけどねぇ。
お母様が卒業した大学へ入学するのが1番良い選択だと思えたから。
同時に、そこは雪愛の高校卒業後の志望校でもあったから。
雪愛と同じ大学に通えて、今まで家を支えてきたお母様と同じことを学べるんだ。
良いことずくめじゃないか。
改札に通し、丁度来た電車に乗り込む。
土曜日ということもあり、電車は混んでいたので、窓際に立つ。
流れていく景色を視界へいれ、僕は色々考えていた。