「あ、ねぇ」
テキトーに屋敷内を歩いていたメイドに、声をかける。
「雪愛が起きたら、言っておいてほしいことがあるんだけど、良い?」
「伝言でございますね。何でしょうか?」
「僕少し出掛けてくるけど、安心してって。
少しスマホは置いて行くけど、必ず帰るからって」
「かしこまりました。お気を付けて」
靴を履き、家から門まで歩く途中、考える。
今年お母様が新しく雇ったメイドは、真面目で良い子だな。
確かあの子、僕が高校2年生の時に定年退職したメイド頭の孫だっけ?
祖母に継いで、孫まで僕の家の黒き秘密を守っていくだなんて。
良い運命なのか、悪い運命なのか。
…余計なことを考えるのは、やめよう。
僕は門を閉め、駅の方向へ歩いて行く。
しかし、長い夢だった。
雪愛と出会ったことも、
園田愛恵を殺したことも、
雪愛が滝田愛佳を殺したことも、
雪愛がアイツに監禁されたことも。
たった4か月間の短い出来事。
それを一晩の夢で、全部思い出すのだから。