チャイムが鳴ったけど、気にしないで僕は教室を出た。

そして「教室に戻れ」と怒る教師を無視し、隣のクラスへ向かった。




「稲生!」




閉まっていた扉を勢いよく開けると、隣のクラスの奴らが、一斉に振り向いた。

先生が突然入ってきた生徒を叱ろうと、怒りに顔を歪めていたけど、入ってきたのが僕だと知って、黙り込んだ。

校長よりも偉い存在…それが、僕なのだから。





「アレ、王子じゃん。
どうしたんだよ、久しぶりじゃねーか」





教室の丁度真ん中あたりに座っていた稲生が、ヘラッと笑った。

…そうだ。

僕は昔から、この笑顔が、苦手だったんだ。









僕と同じ、

ニオイがしていたから―――。








「先生、稲生を借りても良いですか?」

「…え?あ、しかしなぁ…」

「…良いですよね、先生?」





目を細めて先生を睨むと、先生はぎこちなく頷いた。

頷いたのを確認し稲生を見ると、稲生は笑みを崩さぬまま、僕の所へ来た。