道路を挟んだ向こう側の歩道にいる貴兄は、十夜達の視線に気付いているのいないのか素知らぬ顔で歩いていた。
隣には副総長の慧くんも居て。
……どうして二人がこんな所にいるの?
隣県だから居るのはおかしくないんだけど、でも、あんなにも鳳皇を警戒していた貴兄が素の姿で繁華街を歩いているなんて信じられない。
けど、あれは確かに貴兄だった。
あたしが見間違える筈ない。
それに……。
あの視線はトップ争いとかそういうレベルの視線じゃなかった。
もっと深い……敵意剥き出しの視線。
あれが貴兄に向けてなら、皆の表情が険しいのも頷ける。
だって、鳳皇のトップを傷付けられたのだから。
「凛音」
「……っ」
そっと肩を抱かれて、引き寄せられる。
「行くぞ」
何の説明もしないまま手を引いて歩き出す十夜をそっと見上げると、その横顔は普段通りの無表情で。
何事も無かったかの様なその表情に今の出来事が幻だったのかと思った。
けど。
「向かいの歩道に前話した獅鷹の総長が歩いてた」
コソッと耳打ちしてきた煌に、もしかして別人かもしれないという小さな期待が真っ二つに砕かれてしまった。
やっぱりあれは貴兄だったんだ。
見間違いなんかじゃなかった。
貴兄が此処に居る事も、十夜達が貴兄を睨んでいた事も。
全部全部現実だった。