言い淀む彼女の気持ちはわかる。

 実験用のサンプルに触れ、封印を破ってしまった。
 施設内にも影響を与えた時点で、実験リーダーである遥香の責任になりかねない。


 将生だって無事ではないはず。
 最悪、懲戒解雇もありえる。

 遥香の怒りも、もっともだ。
 しかし、いまだ憮然とした面持ちの彼女とは違い、その上司であるセクター長は努めて冷静だった。



「素人の将生を責めても仕方ないよ。俺たちだって迂闊すぎた」


 それもそうですね。
 相手が、上手すぎたというか。


 遥香とセクター長を呼んだはいいものの。
 通話の最中、突然どちらも回線が切られた。


 なので、研究室のドアを開けっ放しにしてくださいという事情も説明できず。

 停電だったここは、彼らの入室に気付くタイミングが遅れたわけでして。



 つまり、また脱出し損ねたんだけど。

 もう悠長なことは言ってられないみたい。



「井上さん。停電は、いつ頃?」

「えーと、ついさっきです」


 いきなりすぎるセクター長の質問に、ビビりながら答える。