「だ·か·ら」


 ビシビシと青筋を浮かべた遥香の声には怒気が混じる。
 懐中電灯を握る手も震えていた。


 そこで、ようやく視界が戻る。
 復旧した電灯の下、遥香の目尻が盛大につりあがった。


「扱いには十分注意しなきゃなんないのに、このバカ者がぁぁぁぁぁッ!!」


 ゴッ!!

「あぎゃんッ!!」

 鈍重っぽい音のあと、将生の珍妙な悲鳴が響く。
 懐中電灯を握った拳で殴られ、キレイに一回転して床に倒れた。


「将生くんッ」

「サンプルに触るのは予想できたけど、あっさりお札を剥がすかッ!? あんたの注意力って鋭いのか鈍いのか、よくわかんないわッ!」


 痛みで床を転がる弟を見下ろし、怒鳴りつける。
 将生の側に玲奈が寄らなければ、蹴られてたかも。実際に彼女が膝をつく寸前、遥香は迷ったように少し後ずさった。


 さすがに無関係の人間までは、巻き込む気がないらしい。
 それでも、収まらない怒りを露わにしていると、背後からセクター長にたしなめられた。


「ハルちゃん。落ち着いて」

「で、でも……これは」