ご飯とか。掃除とか。あと実験の言い訳。


 これは身代わりなどではない。
 お互いの役目を分担しているだけだ。双方の役割をそれぞれが果たしていれば、ふたりとも無傷でいられる(書面上は)。


 でも、さすがに使い古されたネタかな。
 拓真さんも、気付いたかも。


 なんて、頭を下げたままの姿勢で少しだけ視線をあげると。


「……そっか」

 拓真さんが物憂げな表情で、受話器をおいた。


「優しいね。ハルちゃんは」


 か~ッ、この眩しい笑顔がたまらん。
 とろけてしまいそう。


「俺も見習わないと。悠真に対して、どうにもうまく接してやれなくて」


 ああ、どうでもいいですよ。あんなヤツ。
 拓真さんが思い煩うことなんてないです。
 元から可愛げがないんだし。放っておいた方が害がないですって。


 最愛のひとと似た顔立ちの青年が、頭の中に浮かぶ。

 ただし、そいつはいつも仏頂面で纏う雰囲気が正反対だ。

 自然と眉間に皺が寄る。

 加納 悠真。
 拓真さんの実弟でありながら、わたしの天敵と認識した男。