どう止めるか躊躇っている内に、悠真クンは素早くタップしたスマートフォンを耳に当てる。


「あ、兄貴?
 俺なんだけど、今すぐ遥香の研究室に来てくれないか? ちょっとまずいことになった……」


 やべ。
 これ、かなりまずくない?

 彼のお兄様は、第七セクター長·加納 拓真氏であらせられる。
 いきなり、トラブルがバレちゃったよ。

 第三者ではあるものの、何の対処もできてない。隠すこともせず、セクター長に知られたら、遥香の逆鱗に触れるかもしれない。


 その一方で。



「あ、姉ちゃん? 今すぐ研究室に戻って来てくんね?
 今、悠真が具合悪くなってさー。井上の姉ちゃんと恭介が言うには、その原因が、ここにあった雛人形らしいんだわ。どうすればいいか知ってる?」


 将生が、いつの間にかスマートフォンに話しかけている。
 伝えてる内容は概ね合ってるけど、理解してるか怪しい。

 こうなった以上、遥香の耳に入れるのは仕方ない。ただ事情を知った彼女が激怒しないか心配だわ。


 今の状態は十分に怖いけど、遥香がここへ戻ってきた時も怖い。