「うッ」


 鼻と気道を塞ぐような、焼け焦げた匂いに咳き込む。

「遥香ッ、遥香ってばッ! 生きてんのッ!?」


 口元を押さえながら叫んでも、室内からの応答はない。
 そもそも視界いっぱいに謎の黒煙が充満していて、人どころか何も見えない。


「遥香ッ、死んだんなら返事くらいしなさいよッ! あんたの財産もらったげるから!」


 咳き込みそうになるのを必死にこらえ、身も蓋もないこと言ってみる。


 あの女が、これくらいの爆発で死ぬもんかい。

 このまま放置したら、警察や消防が出動してしまう。
 たまたま居合わせただけで、共犯者にされたり、とばっちりを受けたらたまらない。


 身の潔白と騒ぎを起こさせないためにも、諸悪の根元を探し出さねば。


「おーいッ、はる……」

「あー、うっさいわね!」

 ゴンッ!
 苛立ちの声と共に、後頭部に鈍い衝撃が襲ってくる。
 間を置かずにやってくる激痛で視界が滲む。



「いったーッ!」

「そんなに叫ばなくても聞こえてるっつの!」


 痛む部分を押さえ、うずくまる。
 カチャッと鳴る足元には、レンチが無造作に転がってた。