「痛ててッ! い、痛……! 痛だだだだだッ!」

「おまえの耳は節穴か? それとも、聞こえなかったのか? 
 あぁ、そうか。元が緩い脳みそだからな。締めつけたら少しはマシになるかもしれん」

 ぎりぎりと額を覆うようにして、掌に力を込める。
 絶対零度とかマイナスにまで冷たい表情。

 あのまま頭部をトマトみたいに潰しそう(絶対ありえないけど)な勢い。


 悠真クンの殺気を感じたのか、玲奈は慌てて彼の腕を掴む。


「悠真くん。落ち着いて。今は、この部屋から出ることが先決だよッ」


 玲奈の声に、ぴくりと反応する。
 一瞬、逡巡するような表情のあと、悠真クンは額に押しつけていた手を離した。


「命拾いしたな。玲奈に感謝しろ」


 ちくりと棘を刺すことも忘れない。

 悠真クンって意外に短気だったのね。
 ギリギリ聞く耳は持ってるみたいだけど。



「おぉッ。川の向こうでじいちゃんが手招きしてる……」

「将生くん。しっかりして。桜沢博士は、まだ生きてらっしゃるでしょう?」


 よろける桜沢·弟は、あくまで普段通りだ。
 やんわりとした玲奈のツッコミが泣けてくる。