「井上さんッ!?」


 ガッターンッと激しい音に、将生と悠真クンも反応するも遅し。

 扉を開けた主は驚いて、身を引いてしまった。



 もちろん、研究室に入った後で。
 ピッとロックされた作動音だけが響く。



「井上さん、怪我は?」

「……ないわ。大丈夫。これぐらいで落ち込んだりしないわ。するもんですか。ふふふッ」

「しっかりしてください。かなり動揺してるじゃないですか」

 助け起こしながら、鋭いツッコミをしてくる雑賀クン。
 むぅ。こんなやりとりも悪くないな。

 なんて、アホなこと考えてる場合じゃない。

 さっきはバッチリ見えた。開かれた扉の向こうには、全身ずぶ濡れの女はいない。
 雑賀クンの仮説に信憑性が出てきた。


 そこへ、ぱたぱたと駆け寄ってくる人影が。


「い、井上さん……ごめんなさい。驚かせるつもりじゃ……」

「違う違う。こっちこそごめんね」


 手を振って気にするなとアピールする。

 それでも膝を折って、覗き込んでくるのは女性だった。
 整った顔立ちに、庇護欲をそそる濡れた瞳。

 艶やかな黒髪が動く度に背中からさらさらと流れる。