「簡単だよ。助けを呼べばいい」

「えー、そしたらまたあのお姉ちゃんが……」

 さっきの扉でのやりとりを思い出したのか将生の顔が強張る。
 誰かに助けを求めても、あの髪長女は廊下にいるのでは?


 そんな疑問を、雑賀クンはあっさりと否定する。


「たぶん、大丈夫だよ」

 軽い口調に流されそうだが、説得力はかなりあった。


「どんな呪いだって、人ひとりを短時間では殺せない。
 あの人形だって、きっと空間をねじ曲げることしかできないと思う。テリトリーというか、一度に使える効果範囲はそんなに大きくないはずなんだ。現に、彼女は研究室に入ってこないだろう?
 そこから、雛人形の力は局所的だとわかる。この研究室とわずかな距離しか作用しない。
 逆説的には、外部からの干渉を跳ね返せないし、できない。この場合、誰かが入ってくれば扉の空間は正常に繋がってるはず」


 ってことは、誰かにドアか窓を開けさせて、閉めずに外へ出ればいいのね。


「ふ、ふーん……???」

 ちんぷんかんぷんな顔する将生は放っておいて、ポケットからスマートフォンを取り出そうとした瞬間。


 扉からノックの音が響いてきた。