今までのシチュエーションからして、恐怖を煽るには充分だった。
思わず、握ってた手を強く掴んでしまうと、
「あ、玲奈? どうしたんだ?」
桜沢·弟の呑気な声が聞こえてくる。
「今? 姉ちゃんの研究室だけどー」
スマートフォンを耳に当て、普通に相手と会話してる。
こいつ、この状況下で電話してる……?
はぅあッ。
あまりに意外すぎるヤツの行動を見てしまった。
雑賀クンも同じらしい。将生も着信がきた時点で、スマートフォンの画面を確認したんだろうし。
つまるところ、全員、視線を外していたわけで。
そこからは、雑賀クンと私の行動は素早い。
もう阿吽の呼吸みたいに顔を合わせて、辺りを見回す。
「あッ」
人形の置かれていたテーブルには、注連縄と和紙の紙切れだけ。
ここには、まだ顔を隠した男雛があったはず。
さらに背筋の寒気が重くなった。全身が震えてくる。かちかちと歯の根まで合わなくなりそうだ。
すぐに何が起きたか、わかった。
あの女雛、なかなかの策士だ。状況が不利と見たのか、仲間の奪還を優先したらしい。