そこまで説明しても、将生は首を傾げるだけだった。あんまり伝わってないみたいだ。
ビビらせて言うことを聞かせよう思ったけど無理っぽいな。こりゃ。
「早い話、僕たちが見ているかぎり悪さはできないんだよ」
「おおッ!」
雑賀クンの端的すぎる要約で、ぽんッと手を叩く。
駄目じゃん。
これじゃ、丁寧に説明した私が馬鹿みたいじゃん。
がっくりと肩を落としている暇はない。
背筋が痛むような寒気に耐えながら、これからの対策を確認する。
「じゃあ、皆でにらめっこするの?」
「そうなりますね。三人かがりで注視すれば、何もできないと思います」
注連縄の張った台座を椅子で囲む。しばらく、皆で雛人形を眺めるしかない。
すると、途中で将生が困った顔で手をあげた。
「あの~、ふたりとも~」
「なによ。桜沢·弟」
「そんで、その人形は?」
「――――ッ!?」
慌てて台座を見るも、そこには顔を隠した男雛しかいなかった。
「いない?」
きょろきょろと周囲を見回しても、付近にはあの色鮮やかな衣の端すらない。
倒れたり、転がり落ちたわけではなさそうだ。