「いやいや。実は、見間違いとかじゃね?」


 桜沢·弟は首を振って再度ドアの前に立った。


 もう理屈じゃない。
 見間違いであってほしいという願望だった。


 けど、やっぱりそこには虚ろに見つめ返す濁った目がある。



 将生も、やっぱり後ずさる。
 ウィーンと音を音を立て、扉は閉ざされた。



「……不審者じゃないですよね」

 今度は、雑賀クンもばっちり見たようだ。

 実際に遭遇したら無傷ではいられないであろうリアクションだな。
 ここまで冷静だと、さすが魔素解析の専門だけある。


 その横では、だんだん状況が呑み込めてきたらしい将生の顔が青ざめてく。


「……誰かのイタズラ?」

「だったら、あんたが捕まえなさいよ。警備員!」


 あまりにもそそっかしくて、彼の職務を忘れてたわ。

 不安だ。
 研究所と職員を守るのが、あんたの仕事だろうに。


 自然と睨むように顔を凝視してしまう。
 けど、当の本人に気付いた様子はなく、呑気に頭を掻いてぼやく。


「うーん。不審者だったら、一度、本部に確認しないと……」

「そんなこと言ってる場合!?」