「え、なんだよ。急に」

「そ、そっちこそ! 一体なんの用なの!? 桜沢·弟!」

 胸を押さえ、振り返りながら怒鳴る。ちょっと安堵もしながら。


 声の主は、知っていた。
 どこにでもいそうな平凡な顔立ちの青年だ。
 警備員の制服姿で、軽く眉根を寄せる。



「井上の姉ちゃんよー。オレの名前は桜沢 将生【おうさわ まさき】だって言ってんじゃん」

「あんただって、私の名前を覚えなさいよ。そしたら、いくらでも呼んであげるわ」


 歳は、私よりふたつ下の二十七。

 腕組みしながら、軽くあしらってやる。

 こいつは、遥香の弟で研究所の警備をしている。一体、何の用でここに来たのやら。


 その疑問が通じたのか、桜沢·弟がスマートフォン片手に首を傾げる。


「姉ちゃん、知らね? さっき研究室に来いって連絡があったんだけどさ」


 あぁ、そうきたか。
 忘れかけたネタを思い出す。


 あの女、さっきの爆発原因を実の弟になすりつけるつもりね。