強い語気で説教しつつ、ハンカチを雑賀クンの顔に押しつける。


「あ、僕は……」

「動かないで、じっとする。さっきのお礼ですよ」


 わざと意地悪っぽく言う。
 先に彼が口にしたことを真似れば、雑賀クンは反論できない。

 自分の言い分だけを押し通すなんて、できないものね。

 これも彼の人柄を守るためだ。
 ぐっとこらえて、釘をさす。


「そんなにリップサービスもしちゃ駄目よ。雑賀クンが口にしたら本気にする娘はたくさんいるだろうから」

「僕、お世辞を言った覚えはありませんよ」


 頬を拭うハンカチが止まった。

 ……お姉さんの努力を無駄にせんでもらえるかな。
 そんな「口にした言葉は全部、本心です」とか言われても。


 顔を覗き込んで、攻め方を変えてみる。


「今のセリフ、雑賀クンの恋人が聞いたらどう思うのよー? あまりいい気分はしないでしょ」

「……さぁ。どうなんでしょう」


 あれ。
 いきなり、微妙なリアクションだな。

 私が返答に困っていると、また自信なさげな声音で吐露する。