なるほど。あんたの狙いはそれか。


 この第五研究所は、七つのセクターに分かれていて、それぞれ管理責任担当者がいるんだけど。


 第七セクター長の加納 拓真【かのう たくま】は、その中でも実績や人格、容貌まで整った稀有な研究者である。



 なにより、遥香が絶賛片想い中の相手だ。
 歳の離れた幼なじみでもあるらしく、物心ついた時からセクター長を追いかけているんだとか。


 もう、かれこれ二十九年間?
 いやいや。そんなことはどうでもよろしい。



「待ちなさいよ! 私と呑む約束は!?」

「ごめーん。今日は帰って来れないかもー」

 語尾に音符でもついてそうな、上機嫌の返事だった。


 きっと頭ん中は『仕事の話をしている内に、食事に誘われ、お持ち帰り? いやーん』な妄想してるようだが、そろそろ現実を見ろ!

 三十も近いのに付き合ってないなら、もう脈なし決定だろ!


 ……ツッコんでて、なんか虚しくなってきた。

 この歳になると、片想い期間は五年でも三十年でも変わらない気がする。

 そんな内心など全く気にも留めず、遥香は白衣のポケットからスマートフォンを取り出した。